●あらすじ
前世で花屋を営んでいた男爵令嬢のロゼ。
庭師の試験を受けるために王宮に来たはずが、 何故か氷の王と名高い
国王ギャザラの『夜の教育係』として採用されてしまう。
意地悪な物言いをする彼に、ロゼの強気な心がざわつき始めて……。

「陛下の事は率直に申し上げて嫌いです」

甘え下手な世話焼き転生令嬢と不器用でひねくれ者の国王の あたたかくて優しいラブストーリー!!
●発売記念SS 第二弾!
「お綺麗ですわ、王妃陛下。きっと陛下もお喜びになられます」
「ありがとう。そうだと良いのだけれど」
 口々に贈られる侍女たちからの感嘆と称賛。全力で磨き上げられた鏡の中の自分を見つめて、精一杯繕った笑みが引き攣る。
 ——どうしよう。
まさか、こんなにも緊張してしまうとは思わなかった。
国を挙げての盛大な結婚式。良くも悪くも注目されることの多い現国王が、自身で選んだ花嫁。面白半分に広まった様々な噂には尾ひれがついて、国民の関心を更に煽っている。
城内の一室にまで喧噪が届くくらいだ。集まった国民は相当な数なのだろう。それを考えるだけで、全身から血の気が引く。
「王妃陛下。国王陛下がいらっしゃりました」
 どれだけ緊張しようとも、時間は待ってくれない。ふらつく身体をロゼがどうにか引き上げるのと、ギャザラが部屋に入ってくるのは同時だった。
 鏡越しに束の間視線が絡んで、一気に鼓動が跳ね上がる。
 ——綺麗。
 そんな言葉しか出てこないほど、煌びやかな装飾に彩られた彼は美しかった。それはもう、隣に並ぶのが躊躇われるほどに。
 永遠とも思える長い沈黙ののち、重たげに開かれた唇。
「随分と詰めこんだな」
 口にされた言葉を理解するのには、少し時間がかかった。
呆れたように、ロゼの胸元へと向けられた目。にわかに色めき立つ侍女たちの姿に、ようやくその言葉の意味を理解して。
 ——あぁ、いつもの彼だ。
 そんなことを思ったとたん、一気に身体中の力が抜けた。
「陛下はやっぱり、口を開かないほうが素敵です」
「その言葉だけは、おまえには言われたくない」
 わざとらしく溜息をつきながら、取られた手。絡められた指先が、いつもより熱い。そっと顔を見上げれば、むず痒そうに視線を逸らせるだけ。けれど、そんな些細な変化に頬が緩む。
侍女たちの批難の眼差しなど気に留めることもなく歩き出した彼の顔は、ここからではもう見えない。
「ロゼ」
 大きな背中越しに投げかけられた、低く抑えた声。
「——……俺にはずっと、おまえだけだ」
 その言葉に込められた多くのものへ、束の間思いを馳せて。
「……はい」
結局、返事はそれしか返せなかった。胸がいっぱいで、ただ触れた体温が心地よくて。
 開け放たれたバルコニー。あの日、彼が立っていたその場所から、眩いまでの光が降り注いでいる。
誰より不器用に、まっすぐ自分を愛してくれている人。いつもよりも少しだけ温かなその手に導かれるまま、ロゼは強く脚を踏み出した。割れんばかりの歓声の中、背筋を正して見下ろした先には、今日も満開の花々で溢れた庭園が広がっている。


氷の王は転生令嬢を腕に抱く
真宮奏 著:緒笠原くえん 画
6月27日発行予定 1,200円(税抜)

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