●あらすじ |
実の妹に婚約者を奪われた侯爵令嬢のレオノーラは、 妹の婚約者だったアルウィンと代わりに結婚をすることに。 彼の中に妹への想いが残っていると感じた彼女は、それぞれの未来を守る為、 アルウィンのもとを去る決意をする。 「愛していただけなのに……こんなわたし、貴方に見せたくない」 聡明で美しい侯爵令嬢と本心を明かせない公爵子息の ドラマチック ラブストーリー第1弾!! |
●立ち読み |
ガッシャン 隣の部屋から音が聞こえる。バタン、バタン、カツカツと忙しそうに動き回る足音が響く。そうすると続き部屋の扉がノックされてゆっくり開かれた。そこには、慌ててシャワーを浴びたのか髪の毛が半分濡れたままのアルウィンがいた。おまけに着ているシャツは胸元がはだけている。その男の色香に彼女は当てられた。頬を少し赤く染める。 「すまない。これでも急いだつもりだが、団の連中が離してくれなくて」 アルウィンは、少し目を伏せてしどろもどろ言い訳をした。レオノーラに詫びを言うが酒のせいか足元が覚束ない。ヨロヨロとした様子で部屋に入りベッドに倒れこむ。その様子を見て彼女は水差しからコップに水を汲む。そしてアルウィンの傍で屈んだ。 「お帰りなさいませ。お水でもお飲みになりますか?」 アルウィンは、溜息を吐くと身体を起こした。レオノーラはベッドの上に遠慮がちに座ると水を差し出す。レオノーラの手から受け取り、一気に飲み干すと、もう一度彼はベッドに倒れ込んだ。 「ありがとう、レオノーラ嬢……本当に飲み過ぎた」 アルウィンは、気恥ずかしくなり目を瞑ったまま呟く。 「どうぞ、レオノーラと御呼び下さい。……わたしに気遣いは、ご無用です。お疲れなら、このままお休みになって下さい」 彼女は、青緑の瞳を少し伏せてアルウィンを気遣う。 アルウィンは、自分の挙式と披露宴の態度を改めて反省した。いつまでもクロセラのことを割り切れずに未練がましく、ついつい言葉少なくなってしまっただけでなく、彼女のことを見てはいなかった。 そのことを酒の席でカルロに指摘された。レオノーラが王城で申し出をしなければメルオーシュからの援助は打ち切られ、公爵家はどうなっていたか……。丸く収めたのは彼女だと。考えれば彼女には感謝すれども辛く当たる理由などない。レオノーラが、自分と同じく婚約者に裏切られていたことに気付いた。そして、彼女を待たせていることを思い出すと急いでこの部屋へ訪れた。 「レオノーラ、俺のこともアルウィンと呼んでくれ、今日は気遣いもしてやれずにすまない」 アルウィンは、酒の抜けきらない頭で答える。言葉遣いまで気を回せない。身体を起こし彼女を覗き込むと、少し驚いているようだった。そして青緑の目を細めて少し彼女は微笑む。彼には、それがとても魅力的に感じた。 今までクロセラだけしか見てこなかったアルウィン。他の女性がこんなにも魅力的なのかと初めて知る。 それでも彼は、クロセラのことを思うと胸に痛みを覚えるのだ。 「レオノーラ、俺はこの家の財政を立て直したい。だから貴女の申し入れはとてもありがたかった。どうか力を貸してほしい。俺はまだ勉強と経験が足りない。その知識を俺にも分けてくれ」 アルウィンは、レオノーラに真剣な眼差しで言った。そして手をそっと握る。彼女は驚き瞬きをすと恥ずかしそうに視線を落とした。 「わたしで宜しければいくらでもお役に立ちましょう。経緯はいろいろありましたがこれから宜しくお願いします……。わたしはそう、貴方の一番近しい…そうですね、姉のような存在だと思って頂ければ」 彼女は言いたかった。彼に……。いつか本当に愛される存在になりたいと。でも今は言えない。 あらためて彼を愛していることを思い起こさせる。いつか、その琥珀色の瞳に自分だけを映してくれることを願う。 アルウィンは少し困ったように下を向く。 「姉のように——か……。それは困る。そんなことを言われると、貴女を抱けない。俺も男だ。魅力的な女性が傍にいれば抱きたくなる」 その言葉に頬を赤くしたレオノーラ。彼の手にそっと自分の手を重ねる。それから緊張のあまり震える唇を彼の手の甲に押し当てた。 アルウィンは、はっとして顔を上げると、彼女の頬を優しく撫で、額にキスをした。それから頬に、そして最後に唇にもキスを落とす。 「酒臭いかな? 悪い……でも貴女は良い匂いがする」 アルウィンは、レオノーラの耳にキスを落とし舌で軽く舐めた。それから彼女の耳元で優しく呟く。すると百合の香りが鼻をくすぐった。 レオノーラはもうそれだけでなにも考えられなくなる。彼の琥珀色の瞳が甘い蜂蜜のように濃くなった。その瞳に今は自分が映り込んでいる。彼女は戸惑い見返すことしか出来ない。ただアルウィンから、落とされるキスを受けることで精一杯だ。 |
頬にサヨナラのキスを 1 |
宇佐美月明 著:壱也 画 4月28日発行予定 1,200円(税抜) |
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