●あらすじ
前世で花屋を営んでいた男爵令嬢のロゼ。
庭師の試験を受けるために王宮に来たはずが、 何故か氷の王と名高い
国王ギャザラの『夜の教育係』として採用されてしまう。
意地悪な物言いをする彼に、ロゼの強気な心がざわつき始めて……。

「陛下の事は率直に申し上げて嫌いです」

甘え下手な世話焼き転生令嬢と不器用でひねくれ者の国王の あたたかくて優しいラブストーリー!!
●発売記念SS
「あはは、ギャザラさま。私浮いてますよ。浮いてる。あはは」
「……飲みすぎだ、バカ」
 酒臭い、煩い、重い。とにかく最悪だ。いったい何が面白いのか。
  抱え上げた腕の中で、先ほどからずっと笑い転げている妻を見下ろして、ギャザラは深い溜息を吐き出した。
 わかっている。こうなったのは、彼女が原因ではない。ロゼは普段、決して自分の限界量を越えるような飲み方はしない。
 ただ今日貰った異国の酒が、飲みやすさの割には度数が高く、後から酔いが回ってしまった。
  それだけだ。注意しておこうと思っていたのに、来賓に捉まって伝えそびれてしまったのは自分だ。
  責める気は毛頭ないが、それにしてもこの状況は最悪だ。
 ——なにせ。
「んん……や、だ。行かないで」
 平素にはない、甘えた響きを孕んだ声。
 寝台の上に彼女の身を横たえて、わずかに離した身体に、腕が絡みついてくる。
「好きです、ギャザラさま。好き。……ギュッとして」
 とろりと蕩けた鳶色の瞳に見つめられて、耳元で囁かれたそんな言葉に、思わず眉間の皺が濃くなる。
 泥酔した時のロゼは、いつもひどく素直で従順で——そんな彼女の姿は、本当に最悪だとギャザラは思う。
「もういいから、寝ろ」
「いや、ですか? 私のこと、もうお嫌いですか」
「そんなことは言っていない。うだうだ言うなら犯すぞ。寝ろ」
 呆れ半分、苛立ち半分で、低く落とした声。不思議そうに首を傾げた彼女は、次の瞬間笑った。
「……いいですよ? ギャザラさまになら、何をされてもかまいません」
 ――愛していますから。
 心の底から溢れたような笑みで、そんなことを口にされて。ダメだと分かっているのに、こみ上げた衝動に抗えなかった。
「っん」
 奪うように、強引に重ねた唇。ねじ込んだ舌で彼女の舌を吸い上げれば、小さく漏れる吐息にぞくりと背筋が震える。
 ——けれど。
「は、……おい、ロゼ。ロゼ?」
 返される反応の弱さに、つと離した唇。深く目を瞑っている彼女の姿を半眼で見つめて、ギャザラは再び深い溜息を零した。
 これで何度目だろうか。こうなることは目に見えているはずなのに、毎度律儀に煽られてしまう自分が情けない。
「……嫌いになるわけが、ないだろうが。俺が、どれだけ——」
 続く言葉を呑み込んで、くしゃりと撫でた頭。心地よさそうに喉を鳴らしたその人の顔を見つめて、小さく肩をすくめる。
「起きたら覚えていろよ」
 小憎らしいほど安心した顔で眠る妻へ、口づけと共に低い声を落として、ギャザラは小さなその身を引き寄せた。


氷の王は転生令嬢を腕に抱く
真宮奏 著:緒笠原くえん 画
6月27日発行予定 1,200円(税抜)

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