●あらすじ |
強大な魔力を持つ、黒うさぎの獣人ミイシャ。
お転婆な彼女の夢は【あたたかい家庭を築く】こと。 師匠に連れられてやってきた王宮で、【理想の旦那様の条件をフルコンプリート】した トラの獣人ガリオンと出会う。 ミイシャの猛烈アピールに、早速急接近する二人。 しかし、この恋の成就には越えなければならない【大きな壁】があった……!! 「お嫁さんになるために、全力でがんばります!」 【あざとカワイイ黒うさぎとクールな溺愛系イケメントラのモフモフでハッピーな爽快ラブファンタジー!!】 |
●創刊記念SS |
人参 「ガリオーン、ガリオーン、ガリオーン!」 遠くの方から、夫の名前を呼びながらうさぎ娘が近づいてくる。今日も無駄に騒がしいのは、ディカルダ帝国王妃のミイシャである。もう人妻なので、娘と言うには相応しくないかもしれないが、彼女は16歳で成人しているにもかかわらず、見た目は幼い少女なのだ。気の毒にも、夫のエンデュガリオン皇帝は悪いことなどこれっぽっちもしていないのに「……ロリコン?」と不名誉な噂をたてられる始末である。 その黒うさぎのミイシャはいつものように遠慮なく執務室のドアを開け、ディカルダ帝国の首脳陣が生温かい目で見守る中で「ガリオーン、大好き!」と愛する夫にぴょんと飛びついた。 「どうした、ミイシャ? 人参でも食べさせて欲しいのか?」 可愛いうさぎを抱き上げたトラが、ピンクの頬にすりすりと頬ずりしながら言った。 「ええっ、なんでわかったの? ガリオンったらすごーい、これは可愛いうさぎに対する愛の力なのかな?」 両手でグーを作って口元に当て、きゅん、と首を傾げる。 「あのね、ガリオンと出会ってからの事を思い出していたら、うさぎ、寂しい気持ちになっちゃったの。迎えに来るって言ったから毎日庭園のベンチでガリオンを待っていたのに……ガリオンたら……全然、来なくて……うさぎ、毎日、待って……」 しょんぼりと下を向き、ミイシャの声がかすれていった。 「ああ、すまん、ミイシャ!」 ガリオンは赤い瞳に涙をためた愛する妻を抱きしめた。 「俺が悪かった。止める者たちをなぎ倒して、なんなら皆屍にしてでもお前を迎えに行けばよかったのに、俺は愚かだった!」 「いいえ、そちらの方が愚かですわね」 屍になるところだった、アダン、セリューク、クストランが背筋を凍らせて黙り込む中、うさぎの後を追って執務室に入ってきたテンの令嬢が言った。 「陛下が理性的なトラでようございましたわ。そして、王妃様、わたくしのオレンジのしっぽでピンピンして欲しければ、陛下のお仕事を邪魔せずお部屋にお戻りください」 「いや! ガリオンと一緒にいないと、うさぎは寂しくて死んじゃうもん! うさぎはトラに、あのベンチで人参を食べさせて欲しいのよ! でも、しっぽピンピンはふわふわだね……」 どうやら、テンのオレンジのしっぽでピンピンされるのが、お仕置きではなくご褒美になっているらしい。王妃のお目付役になったセルリアは、額を押さえてため息をついてから言った。 「セリューク様、現在のお仕事に、ミイシャ様が人参を一本食べるくらいの時間の余裕はございますか?」 「それがなぜかちょうどあるんですよね、いつものように」 うさぎの運の良さに感心するセリューク。 「それでは陛下、王妃様を抱っこしたまま庭園のベンチにお行きくださいませ。すぐに新鮮な人参を届けさせますゆえ」 「うむ」 「わあ、テンは優しいね!」 「ええ。優しくて忍耐強くて根気がありますのよ、わたくし」 ため息をつくテンの令嬢に向かって手を振って、笑顔で愛嬌を振りまくミイシャを抱いたまま、ガリオンは一瞬たりとも無駄にするまいと、執務室の窓から飛び降りて、ふたりの出会った庭園に向かって駆け出すのであった。 |
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黒いおみみのうさぎなの |
葉月クロル 著:椎名咲月 画 3月27日発行予定 1,200円(税抜) |
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