●あらすじ |
真面目さが取り柄の堅物役人リンジーは、優しくて皆に頼られる、騎士団長ユーリに、密かに憧れを抱いていた。 かげながら頑張っているといつも励ましてくれる彼。 自分に自信のないリンジーは 素直になれずにいたのだが……。 「……私は恋愛とか、不得手ですから」 素直になれない努力家レディと、包容力のあるスーパー騎士団長の 優しい優しいラブストーリー、開幕!! |
●立ち読み |
「まぁ、人それぞれに悩み方っていうのはあるけれど、俺の経験上分かるのはただ一人で考え込むっていうのにも限界があるってことだな。例えば話を聞いてもらうだけでも意外と頭の中が整理できて答えがおのずと出てくる場合もあるし、ちょっとしたアドバイスから導き出される場合もあるよ。問題は今のウォルスノー女史にそういう相手がいるかってことだ。もしいるのなら、その人に話を聞いてもらうといい。もしいないなら俺を選んでみないか? 口の堅さは保証する」 「でも……」 「あくまでこれは相談だ。仕事をする上で相談は不可欠だろう? 今お前を悩ませていることが業務に支障をきたしているのならば、それを速やかに排除する必要がある。そのための相談。仕事のための相談。な?」 わざわざそんな免罪符をくれてリンジーの気を軽くしてくれる。その言葉に心打たれたのは間違いなかった。それに、本当はずっと誰かに相談したくて仕方がなかったのかもしれない。けれどもいったい誰を信用していいか分からず、自分の弱みの見せ方すら分からなかった。自分の仕事を認めてもらうためには強くあらねばならない。そう自分に言い聞かせていた。だからそんなリンジーにとってはユーリのその言葉は救いだったのかもしれない。 鼻がツンと痛くなる感覚がして、その込み上げる熱を飲み込んだ。 「なかなか上手くいかなくて、ちょっと悩んでいたんです。私としては頑張っているつもりなんですけど、一部の人から見れば私が『女』だからって色眼鏡で見られていまして。『女だから色仕かけが使える』とか、失敗しても『泣いて赦してもらうんだろ』とか謂れもないことで中傷を受けることもあるんです。確かにここは男社会ですしその中に女が交じるということに不快感を持たれるという覚悟はしていたんですが、思ったより風当たりが強くてどうしたものかと、思いまして……」 語尾が弱くなった。気を緩めたら涙声になりそうで気を張るも、どこか上手くいかない。 「ここ、私の逃げ場所なんです。落ち込んだ時とか気分を変えたい時なんかに寄っていたんですが、まさか団長に見つかるとは思いもよらず。すみません、なんか情けない姿を晒してしまって」 誤魔化すように無理矢理笑顔をつくった。そうでもしなければこれ以上話すことができなくなりそうだったからだ。少し強引だがもう話は終わりとばかりに謝罪をして切り上げようとした。 「謝る必要なんかない。誰しもそういう場所はあるものだし、情けないとも思わないよ」 けれどもユーリが優しくリンジーの言葉を肯定してくれる。否定の言葉や蔑むようなものは一切なく、リンジーの弱さをも受け入れてくれるようなそんな言葉に、心に温かな光が灯る。 「本当ですか?」 「ああ。別に常に気丈にしている必要はないさ。寧ろそういう心のよりどころは作っておいた方がいい」 「団長にもあるんですか? こういう心のよりどころ」 「俺の場合は場所とかではなくて、心を落ち着けたい時とか考えごとをしたい時はひたすら剣を振っているよ。まぁ、一種のストレス解消に近いものだ。後はそうだな、愚痴とかも酒を飲みながら溢こぼす。ほら、お前んとこのノールグエスト、あいつが俺の飲み友達」 だからお前も気にするな。そう言ってユーリは静かに笑い、そして頭の上に手を乗せてポンポンと軽く撫でてくれた。それが今までの頑張りや強がりをねぎらってくれているような気がした。 そしてユーリは言う。 「お前は優秀なんだな」 と。 女というだけで仕事の成果を認めてもらえないと悩んでいるという話だったのに、何故そこからその言葉が導き出されるのか意味が分からなかった。本当にちゃんと分かっているのか、知ったかぶりではないのかと目の前の男を疑う。 胡乱な目をして睨めるリンジーを見て、クスリと笑うとユーリは尚も続けた。 「あのな、だいたいそういう無神経な発言をする奴っていうのは往々にして仕事ができない奴が多いんだ。自分の劣等感を他者を貶めることでなくそうとしてるんだよ。特にお前は財務省では唯一の女だし、新人。攻撃もしやすくなる」 そう言われて思い出す面々。リンジーに酷い言葉を投げかける先輩に同僚。確かに悪口は達者だが、仕事はできる部類とは言い難い。上長に仕事のずさんさを注意されていることが多く、あまり大きな仕事は任されておらず、暇そうにしているところを見かける時が多々ある。 「逆に言えばお前が女だということ以外に攻撃するところがないんだ。だから殊更女性軽視の言葉が出やすい。それだけ文句のつけどころがないくらいにお前の仕事が素晴らしいってことだ。よく見てみろ。お前を貶めている奴ら、ちゃんと仕事できてるか? お前より成果出せているか? そんな奴らに頑張っているお前が負けるわけがない。自信持て」 リンジーの頭に置かれた大きな手。大きくてゴツゴツしていて、温かい。 小さな子供にするみたいに優しく撫でられるのは嫌だったけれど、不思議とそれが心地よくて撥ねのける気持ちにはならない。頬を赤らめ、俯きながらされるがままになる。 「それにお前が騎士団の担当になってから俺も助かっている」 これはお世辞だろうか。それともリンジーを励ますための嘘? 誇張した言葉? それでもいい。それでもそれらの言葉は今解れた心には必要な養分だった。仕事に対するモチベーションが崩れそうな時にユーリがそれを救ってくれたのだ。 |
それは団長、あなたです。 1 |
ちろりん 著:KRN 画 2月27日発行予定 1,200円(税抜) |
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