●発行記念SS 幸せな結婚生活 |
夜が近づき始めると、クローディアはいつもそわそわとしてしまう。 まだだろうか。それとも、もうそろそろだろうか。 結局、何の音もしないうちにソファから腰を上げて、広い居室を後にする。そのまま長い廊下を進み、玄関ホールまで辿り着いてしまった時のことだ。 偶然にも扉が開き、そして今朝振りに会う待ち焦がれた人が、美しい銀色の月を背にして、帰って来た。 「ただいま、クローディア」 「エリオット様、お帰りなさいませ」 出迎えた妻を、毎回必ず抱き締めるエリオットが、クローディアの亜麻色の髪に顔を埋める。 石鹸の香りがする、綿菓子のようにふわふわと柔らかな彼女の髪は、どうやら彼のお気に入りのようだ。 広い居室にて食後のデザートをともに楽しむ時も、休日に二人で馬車に乗って何処かに出掛ける時も。もちろん、毎晩彼の腕の中で眠る時も。気付けばいつも、エリオットはクローディアの髪に顔を埋め、幸せそうに撫でている。 それは本当に無意識のようで、結婚して数週間が経った頃に尋ねた際、エリオットは顔を真っ赤にして視線を泳がせていた。 あの時の動揺する彼に、うっかり可愛らしいという感情を抱いてしまったことは、クローディアの中の小さな秘密である。 「クローディア、夕食はもう取ったのか?」 「まだです。……一人では寂しいので」 広い背中に出来る限り腕を回しているクローディアが、厚い胸板にほんのりと紅い顔を埋める。結婚して数ヶ月が経ち、彼が隣にいることが当たり前になった今、クローディアは昔以上にエリオットに甘えてしまっていると思う。 故に、羞恥から顔を上げられないクローディアの頭上で、エリオットはふっと笑みを漏らした。 「そうか。では、一緒に……」 一緒に夕食を取ろう。 そう続けられるのだろうと疑ってもいないクローディアの予想に反して、彼は何故かいきなり彼女を抱き上げた。 「えっ……」 「すまない。……やはり、夕食は後でも良いだろうか?」 クローディアを横抱きにしたエリオットの紫紺色の瞳に、何故か見慣れた情欲の炎が宿っている。 「エリオット様、あの……?」 「君の甘い香りに……愛らしい行動に、もう我慢が出来そうにないのだが」 目元を赤らめたエリオットが、妻にお伺いを立てる。 蕩けそうなほどに熱い紫紺色の瞳に対して、彼はどこまでもクローディアの気持ちを優先したいようだ。 毎日味わう大切にされる喜びに、ふわりと頬を緩めたクローディアは、愛情深い夫の首にそっと腕を絡めた。 |
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私と公爵様の甘やかなる契約関係 |
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