●あらすじ
 小国ハックワースの王女リアナは、レーヴェンガルト帝国の皇帝ヴィルフリートの側妃として召し上げられた。
 形だけの側妃だと思っていたリアナだったが、突きつけられた冷たい言葉とは裏腹の優しい一面を見せてくれる ヴィルフリートに心は揺れ動くのだった。
 舞踏会の日、側妃としての務めを果たすべくリアナは慎ましくもヴィルフリートの側に立っていた。
  皇帝に挨拶をと舞踏会の出席者である貴族たちのなした長い列が一段落し、二人は用意された部屋へとともに戻る。
 公務と打って変わって表情を和らげるヴィルフリートに、リアナは……?
●発売記念SS
 広い寝台の端に座ったリアナは、膝の上に置いた手が無意識にガウンの布地を握りしめていることに気付いた。
 何をそんなに緊張しているのだろう。
 慌てて手の力を緩めてふうと息を吐く。すると強張っていたらしい肩の力が抜けて少し下がった。
 本日、宿泊のために立ち寄った領主の屋敷では、何もかもが完璧に用意されていた。おそらく、到着がかなり遅くなったからだろう。荷を解く手間を省いてくれようと思ったのか、シンプルなドレスや夜着までが準備されていた。その好意を無下にできないと思ったのか、それとも荷を解くのが億劫だったのかは知らないが、侍女はそれをリアナに用意した。そうされたら断る理由もなかったリアナは素直にその夜着を着た。そして、自分の姿を見て、困ってしまった。
 何と言うか、それは大部分が透けている素材で出来ていたのだ。
レーヴェンガルトの上流階級の女性というのは、みんなこんなものを着て寝ているのかとリアナは何度目かのため息をついた。
 その時、扉が開く音がして、湯を使ったヴィルフリートが浴室から出てきた。髪についていた水気を布で拭うと、傍にいた侍従からシャツを受け取り、裸の上半身に纏おうとして、眉をひそめた。

「この部屋、なんか暑いな」

 その言葉にリアナはびくりと反応する。

「……そうでしょうか」

 嘘だった。本当はかなり暑い。部屋の中は恐らく裸でいても平気なくらい暖められていた。しかしリアナはしっかりと厚手のガウンを着込んでいた。理由はもちろん、透けていて、胸の形やその先端の位置までもがわかってしまう、一枚でいたら裸同然みたいな夜着を見られるのが恥ずかしいからだ。ちなみにこのガウンも用意されていたものだった。今日はガウンのままで寝ようと固く誓っていたが、困ったことに身体は苦痛を訴え始めていた。リアナの額には、汗が滲んできている。
 首を傾けてからシャツを着るのを取りやめたヴィルフリートは、それをその辺に放ると侍従に下がるように言ってから、寝台に上がった。そしてちらりとリアナを見た。

「リアナは寝ないのか? 早く休んだ方がいい」
「ね、ねます」

 リアナはヴィルフリートの後を追うようにして、寝台の上に身を横たえようとした。

「おい、それで寝るのか?」
「え?」
「暑いだろ。そんな恰好で寝たら」
「い、いえ……そんなには」
「汗をかいている。脱いだ方がいい」

 あっと思った時には、肘で身体を起こしたヴィルフリートがガウンの紐を引っ張っていた。慌てて胸元を押さえようとしたが、一足早く、ヴィルフリートが手を掛けてその前を開いた。
 おそらくそのままガウンを脱がせてくれようとしていたであろう手の動きが止まる。ガウンの下から現れた姿を凝視されているのがわかって、リアナはぐっと身を竦ませた。ヴィルフリートの顔が見られなくて、ぎゅっと目を瞑る。恥ずかしさでかあっと顔に熱が集まるのを感じた。

「……なるほど」

 一呼吸置いた後、上から降ってきた言葉にリアナは慌てて目を開いた。

「あの、これは、その、用意されていて、あの、お嫌でしたら、すぐに着替えます」

 しどろもどろになったリアナは、ヴィルフリートの顔を見ないままで身を起こそうとした。すると、意外なほど強い力でぐっと押し留められた。

「どうしてだ。悪くない」
「え?」

 思わずその顔に視線を移すと、ヴィルフリートはリアナを見てにやっと笑った。

「今日はこのまま寝ようと思ったが、気が変わりそうだ」

 その意味を理解する前に、リアナは唇を塞がれた。


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