●あらすじ |
歌手だった前世の経験を活かし、宮廷で働く決心をした貴族令嬢のシーラ。自分の【歌を評価してくれる】パトロンが欲しい! そんな彼女の前に現れたのは、超絶イケメンで頼りになる、【完璧すぎる王子】リシャルドだった!? 「あんな女ったらしで、【平気でキスをしてくる】王子の専属になんてなりたくない!」 【ポジティブで優しい転生歌姫とチャラくて強引な王子様の幸せいっぱいな王宮ラブファンタジー第一弾!!】 |
●立ち読み |
「予想以上だよ、シーラ。この国にこんな綺麗な声の子がいたなんて、知らなかった」 「ありがとうございます、リシャルド殿下。私は昨日から宮廷音楽家の歌手になったばかりなんです」 なので、リシャルド殿下が知らないのも無理はないのだ。 おいでおいでと手招きをされて、私はどうしようかと焦る。殿下が座っているのは、二人掛けのソファだ。隣に座れと、言っているのだろうか? ——まさかね。 近くへ来いというだけだろう。たかが歌手を、隣に座らせるはずがない。 「はい」 素直に近くへ行き跪くと、違うよと笑われた。 「隣に座って、シーラ」 「ええと、さすがにそれは……。私のような者には、恐れ多いです」 王子の隣に座れるような立場ではない。 私は高貴な貴族令嬢でもなんでもない、貧乏子爵の娘なのだ。こうして直接会話が出来ただけでも奇跡かもしれないのに。 どうしようと悩んでいると、シーラと、強く私の名前を呼ばれ——リシャルド殿下の綺麗な瞳が、私を捉えた。 「……っ! し、失礼します」 「うん」 私が隣へ座ると、花がほころんだような笑顔を向けられた。 女性以上に整った綺麗な顔に微笑まれては、たまったものではない。 「すごく素敵な歌だったよ。聴かせてくれてありがとう」 「いいえ。私のような、音楽家になりたての者の歌を聴いてくださって、ありがとうございます」 ドキドキしながら、リシャルド殿下へ返事をする。 王族と会話をするなんて、今日が初めてだ。失礼にならないよう、慎重に言葉を選んでいく。 ——というか、なんで私の髪を触るの? リシャルド殿下は、楽しそうに綺麗な指で私の髪をくるくると絡めている。 正直止めて欲しいのだけれども、そんなことを言えるはずもなく。 「シーラの髪は指通りがよくて、ずっと触っていたいくらいだね」 「っ! あ、ありがとうございます……」 優しく微笑まれて、思わず顔を逸らしてしまう。 そんな恥ずかしいことを、呼吸するかのように言わないでほしい。どうすればいいのかわからないし、赤くなった顔を元に戻す方法だって私は知らない。 「可愛い。……あまり、男には慣れてないんだ?」 「し、しがない歌手ですから……」 リシャルド殿下の指が私の頬をすべる。これはよくない兆候だと思うのだけれど、逃げ場がない。 「あ、あの、殿下!」 「——うん?」 私の呼びかけに返事をしてくれるけれど、聞いているわけではないのか、その指が止まることはない。 くいっと顎を持ち上げられて、ちゅっと口づけられた。 「んっ!」 「シーラの唇、柔らかくて好き」 「や、……ふっ」 すぐにやめてと声をあげようとしたが、リシャルド殿下の動きは素早かった。 再び、その唇を私のそれに押し付けられた。優しく、何度もついばむようにされて、体が震えてしまう。 リシャルド殿下の吐息が私の唇にかかり、くすぐったさに体が震える。 「ん。可愛い。もしかして……キス、初めて?」 「————っ!」 「当たりだ」 くすくす笑いながら、リシャルド殿下は最後に私の唇をぺろりと舐める。 ぞくりとした感覚が体に走って、びくっと跳ねてしまう。 「君みたいな子がいるなんてね。ごめんごめん、もうしないから」 「うう、いきなりこんな、酷いです……っ!」 本当ならば、殴ってやりたい。 けれど王子である彼にそんなことは出来ないし——それ以上に、私の体が震えて実行出来そうになかったのだ。 もうしないと言われたのだから、早く部屋に戻りたい。 が、私はリシャルド殿下の告げた言葉に驚き、目を見開くことになる。 「シーラ。俺の歌姫になってよ」 有無を言わさないリシャルド殿下の笑顔が、そこにあった。 王族であるリシャルド殿下の専属になることが出来れば、確かに権力もお金も手に入れることが出来ることは間違いない。願ったり叶ったりだ。 ——でも。 この殿下、超絶チャラい! 私をいやらしい公爵から助けてくれたことには、大変感謝しているし嬉しかった。でも、その代わりにファーストキスを奪われたのだ……。 自分の体を差し出すことは望んでいないし、アンネだってその事実を知ったら傷つくに決まっている。だから、私は気付けば首を横に振っていた。 「俺の歌姫は、嫌?」 「あ……っ」 リシャルド殿下が低い声で、私に甘く囁く。 「まさか、断られるとは思ってもみなかったよ。何が嫌だった? もしかして、シーラのファーストキスをもらっちゃったから?」 「わ、わ、私は……っ、歌だけをちゃんと聴いてくれる人がいいんです!」 「…………なるほどね」 くすくす笑いながら、リシャルド殿下は残念と呟く。 「でも、シーラのことは気に入っちゃったからなぁ」 「っ!?」 まさか、そんなことを告げられるとは思ってもみなかった。どうしようとぐるぐる思考が回るけれど、いい案はまったくもって浮かんでこない。 私に触れそうなリシャルド殿下の腕を振り払って、私は勢いよくその場を後にする。 |
宮廷音楽家になったら 王子に溺愛されました 1 |
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